自分の仕事

自分は自動車を作る工場で働いている。
作りかけの自動車を載せ、流れるベルトコンベア。
火花を散らし、生き物の如く動くロボット。
そういうのとは十億万土の隔たりがある仕事をしている。

自動車を作っていると言うか、自動車の部品を作っていたのだ。
工作機械のずらっと並んだ生産ライン。
作りかけの品物をつかみ、その中を歩く俺。
俺にセットされた品物を、せっせと加工する工作機械。
俺がベルトコンベアとロボットの二役をやっているようなものだ。
加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し、加工した品物を取り出して品物をセットしてはスイッチを押し…

まぁいい、もうこの動作も慣れた。
これが自分が仕事を辛く感じる理由には今はならない。
怖く感じているのは生産ラインが止まる、つまりは自分の仕事が途中で止まってしまうのがどうしようもなく怖く感じていることだ。
自分の仕事は一人ではなく、二人でやっている。
もう一人の人間に気を使い、迷惑をかけないように仕事をしていきたいのだが、その障害が沢山ある。
問題のひとつは「自動化」だ。
OA(オフィスオートメーション)みたくFA(ファクトリーオートメーション、工場自動化)とか言うが、下手糞に自動化されたものほど厄介なものはない。
ロボットとか洒落た物を導入して下手糞に自動化すると、そういうのって「故障」するんである…人間なら細胞分裂とかで勝手に傷を治したり体調を整えるが、ロボットはそういうことを一切しない、壊れたら壊れっぱなし。
そういう問題にも気づいて、十何万もかけて目論んでいた「俺のライン自動化作戦」を断念した経緯がある、もっと早く気づくべきだった…。
て言うか、それを気づかせてくれたことは有難いのだが、つまりは自分のいるラインもすでに変に自動化されている部分があるせいで、壊れるたびに、しかも頻繁にそれを治すのに相当な労力と精神力と何より生産ラインを止めて時間を使っているもので、悩みの種の一つである。
さらに言えば寿命のある部品の交換とかが結構あり、「あれもやらなきゃこれもやらなきゃ」と精神的に参ってしまっている…。
どうしちゃったんだろう、自分。
前は平気で遅刻ギリギリで来ていたのに、今では生産ラインが止まるのが怖くて始業のだいぶ前に来て用意を始める始末…。
本当はもうこんな仕事は辞めてしまいたいのであるが、いままでやってきた努力をすべてパァにする恐怖とか、「自分のほかに誰がこれをやって苦しむんだろう」という考えとかがあって、未だに辞められずにいる。
自分が今、仕事で辛いのはこんなところだろうか。
まとめると、
・生産ラインを止めるのが怖い。
・機械が壊れて生産ラインが止まるかもしれないのが怖い
・その他やらなきゃいけないことが多くてそれで生産ラインが止まるのが怖い
・辞めたいが、今までの積み重ねをパァにするのが怖い
・辞めたいが、代わりの人がいない
こうして、薬を飲む生活と相成っているわけだが、本当はどこもこんなもんなのだろうか?
自分ばかり薬を飲んでいるのもおかしな話なのだろうか?
この苦痛は報われるのだろうか?
…。
で、10月中旬。
会社のカウンセリングを受けて、その状況が職場の上司に伝わった結果、仕事場が変更となった。
いままで自分がやっていたタチの悪い生産ラインに入る後輩に心を痛めるが、ともかく自分はこの苦境から逃れられる…はず。
現在の仕事は仕事場の徹底的な品質チェックなのであるが、忙しいときと暇なときのギャップが激しく、また溶接の知識が乏しいため溶接ラインの品質チェックが正しくできているのか心配で不安は残る。
なにはともあれやるしかない、これが自分の選んだ道、なるときはなるようにしかならないのだ、それは今も昔も変わらない。
負けずに、頑張るのだ。
…年が明けて、2月下旬にさしかかろうという頃。
三次元測定器なる道具の普段の使い方を覚えたという事で、仕事場が変更になる。
…品質の測定をしていると、結構、安心だと言う規格から外れているものが出ているんである。
こういうのが出たときのための二重三重の策により、欠陥車は流出していないようであるが、工作機械がポンコツになっているせいで、もしものための二重三重に張った策に頼りまくっているような現状で、見ていてかなり怖い。
その警告を発するのが自分の今居る部署な訳だが、警告を発するだけで問題箇所を治す部署ではない…と言うか、古い工作機械は原因不明の異常が出まくっているため、どうしたらいいやら…。
…とりあえず、計りますかね。
計ってから考えよう、そうしよう。
今日も明日も明後日も。

戻る